写真家の木村肇と言う生き方 (Photographer Hajime Kimura)
その青年は外見的にはバックパッカー風に見えたのですが、大体においてバックパッカー的な生活をしている人はバックパッカールールという独自の振る舞いが身についていたりする為、初対面時にも落ち着いた印象で「海外慣れ」を周囲に振りまく印象がありますが、彼はやたらと皆にフレンドリーでありつつも慎ましく話しかけていたので旅行素人の様な佇まいを醸し出していました。
彼はちょっと面白そうだ、と私の経験からくる直感がありました。
初対面でありながらも人懐っこく幸せそうな笑顔を浮かべる彼に、仕事は何をしているのですか?と問いかけると、彼ははにかみながら「一応、写真なんです」と教えてくれました。
彼の名前は「木村肇」と言います。
聞けば彼は古い写真の技術を学ぶ為に現在ドイツに在住しているとの事でした。
丁度私も日本を立つ前にPND 写真集飲み会 in 代官山というイベントへ友人に誘われて覗きに行き、写真家達の活動を見てきたばかりだったので、素人的な軽い気持ちでどんな写真を撮っているのか聞いてみたところ、彼は「連続写真みたいなものなんですけど…」と謙遜した表情で説明してくれました。
早速ググってみるよ、と言い検索しようとすると、
「英語で調べて下さい、僕は日本では無名なので…」とまた照れた感じで呟きました。
言われた通りに英語名で検索してみると彼の名前と記事、写真が出てきました。
写真を目の当たりにした時に気持ちが吸い込まれて食い入る様に凝視してしまいました。
彼の写真は白黒写真で粒子が荒く、被写体から水墨画の様に白黒の濃厚が荒々しく湧き出ており非常にドラマ性を感じました。
私が見たのは日本の山奥で撮られた一枚でしたが、昭和初期を切り取った様な強い主張のある画で、当然その場所まで行かなければ撮れない写真であり、何よりも見せたい物の強いテーマが読み取りやすかったのです。
これ凄いね!ありきたりな言葉ではありますが素直に浮かんだ感想を告げると、
「でも日本じゃ全く売れなかったですねー。だから今海外にいるんですけど」とはにかんだのでした。
海外では森山大道や荒木経惟という先人達が日本の写真を世界に広めてくれたので、木村さんの写真も理解され人気があるのだと云う事でした。
こんな素晴らしい写真家が海外に流出してしまっている状況は何なのだ?
日本のメディアはコピーライティングとプレゼンに支配されているのでは?と若干やるせない気持ちになりながらも、クサる事無く自らの人生を切り開いている木村さんの様な人に会えた事は大いなる僥倖でありました。
この文章を読んで「木村肇」という写真家に興味を持たれた方は是非一冊彼の写真集を見て感じて下さい。
太い骨のある写真とは、こういう事なのだと理解出来るでしょう。
そして、海外に活路を求めて行った素晴らしく才能のある日本人芸術家達が戻って来た際には、優しく迎え入れられる様な環境に日本が変革していく事を願ってやみません。